メタマテリアル

メタマテリアルと呼ばれる人工的に作られた構造物によって、電磁波に対する応答を大きく変化させることができます。媒質の境界で電磁波が「く」の字に屈折する負屈折などは、メタマテリアルによって始めて実現されました。また、メタマテリアルは構造の大きさを変えるだけですべての波長で動作させることができます。本研究室では、メタマテリアルを用いた新現象の探求と、マイクロ波領域あるいはテラヘルツ領域での実証実験を行っています。

 

 

自己補対メタマテリアル

平面的な金属メタマテリアル(メタ表面)において、金属部分と空隙間部分を入れ替える操作をポジネガ反転と呼びます。ポジネガ反転されたメタ表面による電磁波の散乱は、もとのメタ表面による電磁波の散乱とバビネの原理を介して、関連付きます。もし、ポジネガ反転で形が変わらないような自己補対メタ表面の場合、何か不思議な応答があらわれることが期待されます。当研究室では、自己補対メタ表面の電磁特性に関する研究を行なっています。

自己補対チェッカーボード構造と二酸化バナジウム(VO2)による動的に特性変化可能なメタ表面

自己補対金属チェッカーボード構造はその金属の角の部分が周囲と繋がっているかいないかという、わずかな電気的接続状態の違いで、その電磁波に対する応答が大きく変化することが知られています。 したがって、その部分の導電率を変調することができれば、可変な電磁応答をもつメタマテリアルを実現できると予想できます。 この研究では、そのクリティカルな部分に二酸化バナジウム(VO2)という60〜70℃程度で金属絶縁体相転移を示す物質を配置することで、電磁応答を動的に切り替えられるメタ表面を作製しました[図(a)]。 実際に温度変化により、透過特性が変化する様子を図(b)に示してあります。このようなメタ表面はテラヘルツ波に対する切り替え可能なフィルタとしての応用が考えられます。 また、切り替えをもっと高速にすることができれば、テラヘルツ波に対する振幅・位相変調素子として利用できると期待されます。

参考文献: Y. Urade et al., "Dynamically Babinet-invertible metasurface: a capacitive-inductive reconfigurable filter for terahertz waves using vanadium-dioxide metal-insulator transition," Opt. Express 25, pp. 4405-4410 (2016). [arXiv:1602.07408]
関連文献:
[1] Y. Urade et al., "Theoretical study on dynamical planar-chirality switching in checkerboard-like metasurfaces," EPJ Applied Metamaterials 2, p. 4 (2017).
[2] Y. Nakata et al., "Anisotropic Babinet-Invertible Metasurfaces to Realize Transmission-Reflection Switching for Orthogonal Polarizations of Light," Phys. Rev. Applied 6, p. 044022 (2016).

自己補対メタ表面の周波数無依存応答

図(a)のようなチェッカーボード型の金属構造を考えます。このとき、チェッカーボードの接点は表面抵抗Zcで特徴付けられる抵抗膜であるとします。このとき、Zc=0なら金属同士は繋っており、Zc=∞なら、金属同士は離れています。それでは、その間の状況ではどうなるでしょうか? 我々はこの問に答えるために、電磁界シミュレーションを行ない、どのような周波数に対しても一定の透過率が実現される抵抗値があることを明らかにしました[図(b)]。 また、我々は実際にこのような構造を作製し、この性質をテラヘルツ帯で実験的にも明らかにしました。 この性質は、電場と磁場の双対性と構造の自己補対性が美しく調和した結果であると理論的に説明することができます。さらに回路理論との対応についても研究をしています。

 
参考文献:
[1] Y. Nakata et al., "Plane-wave scattering by self-complementary metasurfaces in terms of electromagnetic duality and Babinet's principle," Phys. Rev. B. 88, 205138 (2013). [arXiv:1311.3839]
[2] Y. Urade et al., "Frequency-Independent Response of Self-Complementary Checkerboard Screens," Phys. Rev. Lett. 114, 237401 (2015). [arXiv:1505.04874]
[3] Y. Urade et al., "A broadband and energy-concentrating terahertz coherent perfect absorber based on a self-complementary," Opt. Lett. 41, pp. 4472-4475 (2016).
参考サイト: 電磁対称性を持った回路

 

EITメタマテリアル

原子を用いて電磁波の速度を著しく減少させる電磁誘起透明化現象(EIT現象)をメタマテリアルで実現することが近年注目を浴びています。このようなメタマテリアルをEITメタマテリアルと呼びます。研究室では、このEITメタマテリアルを用いた電磁波の伝搬速度の制御と電磁波の保存/再生に関する研究を行っています。

真の電磁誘起透明化を実現するメタマテリアル

電磁誘起透明化現象は元々原子系で研究されていた現象で、不透明な媒質が補助的な電磁波の入射で透明になるという現象を指します。これまで、電磁誘起透明化現象を模擬するメタマテリアルが様々研究されてきましたが、透明化現象は電磁波ではないもので制御されていたため、真の意味で電磁誘起透明化現象といえるものではありませんでした。本研究では、メタマテリアルに非線形要素を組み込むことで、元々の原子系の電磁誘起透明化現象と全く同様に、補助的な電磁波によってメタマテリアルを透明化する方法を考案しマイクロ波領域での実証に成功しました。メタマテリアルでは設計によって動作周波数を選ぶことができるので、様々な周波数帯での電磁誘起透明化現象の応用(光メモリなど)が期待できます。

 
参考文献 : T. Nakanishi and M. Kitano, “Implementation of Electromagnetically Induced Transparency in a Metamaterial Controlled with Auxiliary Waves,” Phys. Rev. Applied, 4, p. 024013 (2015).

EITメタマテリアルを用いた電磁波の保存/再生

EITメタマテリアルは電磁波の速度を遅くすることはできますが、そのままではメタマテリアル中に止めることはできません。私達は、EITメタマテリアル中の電磁波パルスの速度を動的に変えることで、メタマテリアル中に電磁パルスを捕捉することに初めて成功しました。捕捉した電磁波パルスは、一定時間経過後に前の状態を保ったまま再生し、メタマテリアル外に取り出すことができます。この技術は光メモリなどへと発展することが期待されます。

 
参考文献 : T. Nakanishi et.al, “Storage of electromagnetic waves in a metamaterial that mimics electromagnetically induced transparency,” Phys. Rev. B, 87, p. 161110 (2013).
外部リンク : [1] MIT Technology Review : First Demonstration of the Storage and Release of Light in a Metamaterial [2] Phys.org : Researchers devise a way to capture and release electromagnetic waves inside a metamaterial

EITメタマテリアルを用いた電磁波の速度制御

EITメタマテリアルを使うことで電磁波パルスの速度(群速度)を低減することができます。これまでの研究では、群速度を変えるにはメタマテリアルの構造を変える必要がありました。私達は、入射する電磁波の当て方によって、群速度をコントロールする方法を考案しました。左に示したメタマテリアルを用いて、入射する電磁波の入射角によって透過する電磁パルスの速度を制御することに成功しました。

 
参考文献 : [1] Y. Tamayama et.al, “Variable group delay in a metamaterial with field-gradient-induced transparency,” Phys. Rev. B, 85, p. 073102 (2012). [2] Y. Tamayama et.al, “Electromagnetic response of a metamaterial with field-gradient-induced transparency,” Phys. Rev. B, 82, p. 165130 (2010).

 

2重共振メタマテリアルを用いた第2次高調波の増強

共振構造をもつメタマテリアルには、エネルギーが集中し場の強度が著しく高くなる場所があります。その部分に非線形要素を導入することで大きな非線形効果を起こすことができます。例えば、入射電磁場の周波数の2倍の周波数の電磁場(第2次高調波)を効率よく生成するメタマテリアルが研究されています。私達は、入射電磁場だけではなく、第2次高調波にも共振するメタマテリアル(2重共振メタマテリアル)を用いることで、従来の単一共振メタマテリアルより遥かに効率的に第2次高調波を生成することに成功しました。

 
参考文献 : [1] T. Nakanishi et.al, "Efficient second harmonic generation in a metamaterial with two resonant modes coupled through two varactor diodes,” Appl. Phys. Lett. 100, p. 044103 (2012). [2] T. Kanazawa et.al, "Enhancement of second harmonic generation in a doubly resonant metamaterial,” Appl. Phys. Lett. 99, p. 024101 (2011).

 

フラットバンドメタマテリアル

金属の表面には表面プラズモンという波動が伝搬します。この波の伝搬特性を決める分散関係は金属の種類と金属上部の媒質の誘電率で決まります。しかし、メタマテリアルの概念を導入し金属に構造をもたせることで、表面プラズモンの分散関係をコントロールすることができます。私達は、左の図に示したような金属構造を用いることで、分散関係が全方向で平坦になるフラットバンド現象をテラヘルツ領域で実現しました。フラットバンド上の表面プラズモンは伝搬せずに局在するので、非線形性の増強や局所センシングなど様々な応用が考えられます。

 
参考文献 : [1] S. Kajiwara et al, “Observation of a nonradiative flat band for spoof surface plasmons in a metallic Lieb lattice,” Phys. Rev. B, 93, p. 075126 (2016). [2] Y. Nakata et al, “Observation of flat band for terahertz spoof plasmons in a metallic kagomé lattice,” Phys. Rev. B, 85, p. 205128 (2012). [3] Y. Nakata et al, “Circuit model for hybridization modes in metamaterials and its analogy to the quantum tight-binding model,” Physica Status Solidi (B), 249, p. 2293 (2012).
参考:中田陽介のホームページ 

 

メタマテリアル界面でのブリュースター現象

 

カイラル真空

 
参考文献 : Y. Tamayama et al. “An invisible medium for circularly polarized electromagnetic waves,” Opt. Express, 16, p. 20869 (2008).

磁気的媒質界面でのTE波ブリュースター条件

 

 
参考文献 : Y. Tamayama et al. “Observation of Brewster’s effect for transverse-electric electromagnetic waves in metamaterials: Experiment and theory,” Phys. Rev. B, 73 p. 193104 (2006).

 

超光速光伝搬と負群遅延

最近の実験技術の進展によって、光パルスの伝搬速度(群速度) を光速cより大きくしたり、逆に自転車なみの速度に減速させ、さらには停止させることすら可能になってきました。 このような異常光伝搬は応用面から強い関心が寄せられているのみならず、波動伝搬の物理を再検討する契機にもなっています。当研究室では、同じ現象を再現する電子回路の研究を行っています。これらの回路は、現象を簡単に模擬できるだけでなく、電磁波の伝搬と物理的に等価になるように設計されているので、電磁波の異常伝搬問題を厳密にシミュレートできます。

参考文献 : [1] T. Nakanishi et.al, “Demonstration of negative group delays in a simple electronic circuit,” Am. J. Phys. 70, p. 1117 (2002). [2] T. Nakanishi et.al, “Simulation of slow light with electronic circuits,” Am. J. Phys. 73, pp. 323 (2005).
参考:光の異常な伝搬を電気回路でシミュレートする 

 

謝辞

 これらの研究は、科学研究費助成金(新学術領域研究 No.22109004、基盤研究C No.22560041)のサポートを受け実施されました。